薫風

風薫る5月です。
写真はある日の3時のお茶タイムから

本日の道具組全体像です。


写真は棗です。
鈴木表朔作杜若蒔絵平棗です。
箱にはそのように書いてありますが、写真の棗の意匠は一般的には「八つ橋蒔絵」として知られています。
ご存じの方もおられるかもしれませんが、この意匠には本歌があり、尾形光琳作八つ橋蒔絵硯箱(国宝)の意匠の写しです。
5月の茶道具としての定番ですが、お菓子が唐衣ですので、必然的な取り合わせです。


写真は茶杓です。
茶杓にも銘があるものも多々あります。筒に書いてあるこの茶杓の銘は「風燕」です。なんと読むのか今ひとつ分かっていません。
しかしながら、風が表題になる茶杓は薫風の5月に使用されることが多く、また風の縁起物として燕もまた5月の季語となります。
作者は「反古庵」という銘を信じるのであれば藤村庸軒ですが、さすがにそれほどの物とは思えないので、一応時代の茶杓としておきます。
(時代は竹のアメ色からするとそう外れてはいないのですが、伝世する庸軒の茶杓とは形が似ていない気がしますので。)


本日のお茶菓子です。
先ほど言いましたが銘は「唐衣」と言います。
見てのとおり、杜若(かきつばた)の意匠です。
なぜ、唐衣というのかは、古文の知識を要求されます。
茶席では定番のネタですが、本日のお菓子は「唐衣」ですか、伊勢物語ですな、というのが正客(茶席で一番上座に座る客のこと、亭主とお茶の談義をしないといけない)の決まり文句でして(無論、亭主がこの説明をしたがることも多いので、この後の説明は譲ってあげないといけません)、あまり饒舌に過ぎてもいけないという間合いの美学がありますが、ここでは一通り説明を。
伊勢物語って?
昔昔あるところに在原業平という貴族が居ました(ということに史実ではなっております)。この貴族が東の国に旅をする途中、今の愛知県の八つ橋という杜若の名所にさしかかったときに、和歌を詠むという話になりました。
テーマは八つ橋にちなんで「かきつばた」となりました。
そこで、在原業平は「からころも、きつつなれにし、つましあらば、はるばるきぬる、たびをしぞおもふ」と詠んだというお話です。
この和歌、縁語のオンパレードなので、中学校くらいの古文の教科書で習うかと思います。
五七五七七の最初の頭の一文字だけ拾うと「か、き、つ、ば、た」となるという遊び心に、縁語とセンチメンタルジャーニーにおけるホームシックなひとときを旅情たっぷりに詠み込んだ歌です。
この季節京都中の和菓子屋が「唐衣」の名前で写真のようなういろうを折りたたんで杜若の形にする和菓子を作ると言っても過言ではありません。
明日から「唐衣」というのはこういう意味なんだよ、とさりげなくひけらかして見ましょう。
特に茶会に参加し、「あーら殿方がいらっしゃいますわ、どうぞ正客へ」などと意地悪く押し出された日には、「唐衣ですか、伊勢物語ですね」などと言ってあげましょう。
半分上から目線だった亭主も驚いて目を丸くし、お茶会のヒーローになれること請け合いです。
しかも、これがまた茶会では絶滅危惧種とされている若い男性であればなおさらです。
さあ、明日から自信をもって、茶席で正客に(ウソですよい子はまねをしないで下さい、若い男性が正客にあがると、なんてずうずうしいと陰口をたたかれます。その陰口を黙らせるだけの正客の対応ができないと結構、針のむしろになります)。


お茶を点てたところです。茶碗は斗々屋の茶碗と言いまして、結構メジャーな形の茶碗です。
高麗か李朝か判然としませんが、江戸時代の古筆(今でいう鑑定人)大倉好齋の極め書きが添えてあります。
私のお気に入りの茶碗の一つです。

最後にもう一度「唐衣」今日はこれだけ覚えてかえって下さい。試験に出るかも知れません(ウソです)。

追伸
また、思い切りお店の名前が抜けましたね。
和菓子通の私が自信をもってお薦めする和菓子屋さんの第2弾
「京華堂利保」さん、川端二条東入るです。
和菓子は全部注文販売です。でも少量でもいやがらずにやってくれる親切なお店です。
うちの事務所からもそれほど遠くないです。




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